穂がひらき、やがて枯れてくると、これまたひとつの眺めになる。
この日のくびきのは光と風が澄んでいていて、夏のあいだは不分別だった時間の移ろいがはっきりしてくる。
ときの移ろいが私を律するのがはっきり判ってくる。しかし私は「さらば夏の光よ!」とのんきなことはいっておられない。
残り40km 残り時間は5:15
前日に、2年前の完走証を出し記録の確認する。12:31:05 50kmまで5:53:25 50~ゴールまで6:37:40
なぜか、50kmまでを6:30と勘違いしてた。前回と同じペースで走ろうと思っていたので6:23:01 実際は30分遅れてる。
細野吹切峠のエイドで
「急がんと、関門に間に合わないよ」
予定通りのはずなのに?
「あと9km 1時間しかないよ」
慌てて飛び出す。関門のことなんか全く考えていなかった。
キロ6分半ぐらいで走らないと間に合わない。
この足はもつんだろうか?とにかくこの関門をクリアしないと完走はない。
今、何キロ地点なんだろ?
今、キロ何分で走っているんだろう?
関門は何キロ地点?
閉鎖時間は?
「あと9km」と言ったけど10kmに近い9kmだったらヤバい。
脳裏に浮かぶ「野辺山の44秒」
ゴールドゼッケンに追いついたので、この人なら間に合うように走っているだろうと後につくが、遅く感じたので先に行くことする。
追い抜きざま、「関門に間に合いますかね」と聞くと「あんたのスピードなら間に合うよ」
ゴールドゼッケンは、10回完走と思っていたが、10回出場らしい。
65kmの標識を通過 関門が70km地点だと間に合わない。
次の集団に追いついた。最後尾のにーちゃんに「関門時間何時?」と聞く。
そんなことも把握せんと走ってんのとうさん臭い顔して「2時50分」
時計を見る。時間過ぎている????スプリットタイム表示だった。
第3関門69km クリア 8分前
次の関門は16km先 前の関門では、長い下りがあったのでタイムを稼げたが、その反動が足にきている。
関門に近づくとスタッフさんが、あと何分、後メートルと教えてくれる。それを聞いて足を止めるランナーもいるが、私はそのまま走る。
脳裏に浮かぶ「野辺山の44秒」
第4関門85km クリア 2分前
まだ関門があるという。7km先 55分間で 厳しい!
第5関門92km クリア 2分前
ゴールまで8km、たった8km。 65分間の勝負だ。
ここをスタートしたとき「海鮮汁」と聞こえた。
前回食べ損ねた「海鮮汁」
戻って食べる。中身はわかめとネギ。エビとかすり身はなかった。
今、思うと無謀なことしたものだ。「海鮮汁」のせいでDNFになったかもしれない。
辛くなってくると思いだす「野辺山の44秒」
距離表示がないので、不安になる。
誘導員やエイドのスタッフは、大よその事しか知らないと思っても、「ゴールまで、何キロ」と尋ねる。
「後4kmぐらい」こっちは何秒を争っている100m違っても20秒狂ってくる
、時計を見る 厳しい。
車道に出て前の男女を抜く。このままゴールまで・・・しばらくするとさっき抜いたサロマを履いた女性に抜かれあっという間に姿が見えなくなった。
真っ暗な1本道。臨時の街灯がポツリポツリと続いている。ランナーの姿は全く見えない。
秋の夕暮れは、冷たく澄みきった大気が生命を眠らされ殺してしまうほど優しい。
楽になりたいという魔物の足音が忍び寄ってきて気分が落ち込みかけたころ、ランナーの姿が見えた。
追いつき、追い抜く。また追い抜かれ結局3人の男で引っ張りあった。
ゴールまでの1直線の道路に出た途端、若い二人が私を置き去りにした。
野辺山のときと同じだ。若い連中は次々に追い抜いていく。心臓が破裂してもいいからと頑張るが足はいうこと聞かない。
時計を見る。表示が消えている。しまったスリープ状態になっている。時刻も1、2分違ってたことも思い出す。(今、確認したところ1分ほど早かった)
スリープ状態は回復させることは出来るが、1分早いか遅いか分からないので自分の時計は信用できない。
応援に来ていた方に、「何分ですか」と叫ぶ。慌てて携帯を取り出し「45分です、間に合いますよ」
後何キロなんだ?もう間に合わないのでは・・・・野辺山の二の舞!
距離表示が見えた。99kmであってくれ!
無情にも「98km」スピードを上げたつもりだが、前を行くランナーとは縮むどころか差が広がっている。
99km過ぎた。「頑張れ、もう少しだよ」「まだ間に合うよ」と声援受ける。この声援が野辺山の時と違うような気がした。
確実な「まだ間に合うよ」と絶望的な「まだ間に合うよ」
あのコーナーを曲がれば「ゴール」だ、沿道から時間を読み上げてくれる。「後60秒」「45秒」と
数奇な力と走る快感と陶酔と恐怖を感じた「くびきの100km」
13時間29分39秒